犬の名は全て一郎     (お暇な時にでも読んで下さい・・・)/ふるる
 
あら、随分ゆっくりだったのねえ。あの件はどうだったの。」
母が聞いてきた。
「どうやら、盲導犬の里親をやっているらしいですよ。お母さんもご存知でしょう。以前新聞でご覧になって、すごいわねえ、っておっしゃっていた盲導犬。」
「まあ。」
「そんなことより、華子ちゃんが、僕の許婚になりたいと言ってきたんで、吃驚しましたよ。どうも冗談ではないらしいし。」
「まあ・・・・。華子ちゃんが・・・。恋は盲目と言うものねえ。それで、盲導犬なの?」
とんちんかんな、的を得ているようなことを母はつぶやいた。

さて。それから、一郎は華子の屋敷に足げく通うようになっていった。やはり、一郎も男、桜の花のような華子に好きと言われれば嬉しいに決まっている。
二人は日に日に親しくなっていくのだが、一昨年祖父から譲り受けた盆栽が、紙と粘土で精工に作られた偽物だと知らされるのは、もうしばらく後の話である。


                                   完


  グループ"短いおはなし"
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