賭/佐々宝砂
気がつくと
捨てようとした広告紙の裏一面に
ひとつの名前を繰り返し書いていたりして
それがまた
自分でもびっくりするくらい意外な名前で
戸惑うというより不思議な気分になってしまって
驚愕と疑問の休日出勤の朝
あたしはその名前の持ち主に出逢う
気づいてしまった以上しかたない
賭けるしかない
動き始めたショートラインを見下ろして
あたしは昔好きだった詩人について考える
その詩人が書いた「賭け」という詩について考える
自分の破滅を賭けると断言できた
その詩人の若さについて考える
あたしにも
賭けるものはある
あたしのポケットはカラではなく
カッターとか税金
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