海の日/佐野権太
朝霧の蒸発してゆく速さに
子供たちは
緑色の鼻先をあつめて
ただしい季節を嗅ぎわける
くったり眠っている
お父さんのバルブを
こっそりひらいて
空色を注入する
うん、うんとうなずき合う
ちいさな拍子に合わせて
ぺこん、ぺこんと背骨が立ちあがる
耳の後ろがふくらめば
もうあんしん
ふにふに握っても
柔らかい口角を保っている
お母さんは台所
慎重な手つきで
ウインナーに切り込みを入れている
おっとせいは
黒ゴマの瞳がやさしいから
やっぱり
向かい合わせに、ね
(な、ちゅ?
(ちがう、ちがう な、つ
(もうどっちでもいいわよ
(じゃ、なちゅ、で
室内を潮騒が循環する
その遠心力で
子供たちは
もうとっくに走り出しているから
お父さんは荷物を持って
お母さんの手をとって
飛ばされないように、麦わら
まぶしい砂浜
せりあがる海の匂いを
いっぱい吸って
大きな声で叫んで
もう
何もかも
叫んで
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