春サメタ散歩コウス/木屋 亞万
 
雨の降るのを感じるのは
傘を空へと押し広げる時
張り詰めた半球の帳
音響く球の内部から
滴の垂れる筋を
左手の小指で追う

乾いた小さな炸裂音と
風に乗る湿った臭い
濡れる風景の対比が
雨という世界を作り出す
時間に追われない午後に
散歩へ導く橙の傘
傘越しに見えている
いつもより狭い空
想像で埋めていく
傘の向こう雲の向こう

並木に咲き始めた桜も
私の傘へ導かれていく
天使の羽を入手するには
天使の下で待つしかない
世界へと開いてすぐに
風雨に晒される花びらに
冷たいアスファルトは
似つかわしくないから
傘を広げて羽を待つ

玄関で傘を開いたまま
置いて乾いていくのを
ずっと見つめていよう
ベージュのタイルが濡れ
流れは隙間を濃くする
花びらが傘に張り付いて
装飾のように離れない

春の雨は驚く程に冷たく
風は温かだが熱烈過ぎて
花はいずれ負けてしまう
微笑みながら泣くような
散り際のさよならを
再び拾いにいくために
温かくも冷たくもない
橙の傘を持って歩こう

   グループ"象徴は雨"
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