のこりごと/木屋 亞万
 

落とすなよという
ぬくもりに頷いて
大口を開けたまま
空を仰げば言葉の
群れがやってくる



言葉を零さぬよう
頬張りながら排出
してしまわぬよう
消化だけに留める
全ては咀嚼できぬ



かの有名な哲学者も
よく口にしたと言う
お早う今日は今晩は
有難う御免なさいを
貴方も口にすべきだ
皮膚が底から温まる



本を開くたびに
貴方にことばの
雨が降る透明な
光は見開く頁に
闇は重なる両脇



過去が見えるのは
そこを過ぎたから
未来が見えぬのは
まだ先の事だから
もしかしたら彼は
雲から天気を予見
するように未来が
見えたのだろうか



落とさない
ひとひらも
本を開けば
頭のなかに
透明の雨が
こんこんと
降ってくる



彼は己の未来が
予見できていた
空を読むように
風を見るように
だから多分彼は
伝えられる事を
温もりに乗せて
私に伝えたのだ

言葉は残るから


   グループ"象徴は雨"
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