フライング・アイス/木屋 亞万
リと
溶け始めた外側から削り取っていく
後頭部が痛くなる刺激的な涼しさ
口の中が少し麻痺した後の甘味
舌に濃厚に絡みついてくる
駄菓子屋のみかんの味がして
しばらくは吸う息が心地いい
核に迫るほどに氷山は溶けて
ベシャベシャの蜜柑水が溜まる
橙色の水溜まりを山ごとすする
鼻を抜けるみかんの余韻と
唇の甘さによるべたつきに
しばらく身を任せてから
再び熱っせられつつある身体を
短いホースの着いた水呑場で冷ます
甘さのべたつきを洗い流し
さっぱりとした清涼感に浸る
夏にしかできない涼しさを満喫
たまには誘惑に負けてみようか
おばちゃんアイス一つちょーだい
缶に百円を入れて
隣のスプーンを取る
まだ梅雨の来ない
蝉が鳴く気配などない
この時期に季節を先取り
アイスを頬張る
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