H/あおば
 
  H
             「十万投稿記念企画参加作品」

いつの間にか暗くなり
手暗がりでは捗らない
行灯の火をともし
目をこらして
仕上げを急ぐ仕立屋が
ふと窓の外に目をやると
ぼんやりとした満月が
なだらかな山の端に顔をだし
久しぶりだなというように唆す
生来の遊び好き
誘われるとその気になる性分だから
ボタンホールの穴かがりもそそくさと
縫い上げてから
野原の真ん中へ
小走りで
少し背中の曲がった痩せた男の姿が目に映る

野原の真ん中に
宇宙船がやってきて
かぐや姫の里帰りがあるのかと
あり得ない想像を巡らしては
含み笑いをしてから

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