葬式写真描き/蒸発王
彼は鉛色の鞄
白いカンパスに
12色のアクリル絵の具
一本の筆で
いつも
橋の上で絵を描いていた
『葬式写真描き』
ソコは私の昼寝スポットで
よく鉢合わせをした
たかだか猫一匹と
私が聞いても解らないと思って
ぽつぽつ独り言を言って
怪しさがさらに増した
鉛色の鞄には何枚もの
完成したカンパス
爪を研ぐと彼は怒り
其れとはまた別の哀しそうな顔を映し
これらの絵は
葬式写真だと
ぽつり
と
漏らした
考えれば
この橋も来年の三月に
壊され
流れる
小川はセメントに固められ
家が立つ
この橋の風景は
もうすぐ
死ぬ
私は絵が完成するまで
昼寝をやめて
その様を見守り
年があけて
彼はまた別の絵を描きに旅に出
春が訪れ
私も出てしまった
きっと
彼は今も何処かで
葬式写真を描いている
『葬式写真描き』
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