昔、横堀さんというおじいさんと/芳賀梨花子
けれど、やっぱりコッヘルの底まで飲み干せない。もう、何年も山に登ってはいない。犬の散歩をする早朝。新聞屋さんの次に早起き。たんぽぽコーヒーは目覚ましにならない。でも、今年、一番、最初に咲くたんぽぽを探す。かといって、そいつが一番に綿毛になって飛んでいくわけじゃない。黒い犬が見上げる空が明るくなる。いつのまにか朝日を追いかけるような生活が去って、朝日が背中を追ってくる。昔、横堀さんというおじいさんとお話しするのが好きだった私の。
戻る 編 削 Point(7)