昔、横堀さんというおじいさんと/芳賀梨花子
 
 昔、横堀さんというおじいさんとお話しするのが好きだった。横堀さんは南極にいったことがあるみたいで、オーロラの話とか、地吹雪の話とか、それから私をお膝に乗っけて「娘さん よく聞けよ 山男にゃ 惚れるなよ」という唄を教えてくれた。小さかった私はえらくその唄を気に入って、それから、たとえ三歩でつぶれてしまうような砂山を登る時でも山男の唄を歌っている。それでも月日がたって「娘さん よく聞けよ 山男にゃ 惚れるなよ」という歌詞だけリフレインするようになっても、私は横堀さんのことを忘れていない。

 時々、思う。山に登る人は、脇目も振らずただがむしゃらに頂点を目指すのか、それとも岩間に咲いている花に心を
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