ハンドクリーム・フォー・ア・ジェネレーション/あおば
桃の花が散って
春らしくなった
今は
桜が満開
これからは
いつだって
桜は散ることがない
何時だって何処だって
何処の国にでも咲いている
今年も
小面をつけて五穀豊饒を祈っていると
時間差を示す怖い面を着けた俺の顔が
般若のような俺の顔が
洗面所の鏡に映っている
春はもの狂いの季節なのだと
知ってはいたが
まさか般若の実物を見ることはないと思っていた
麗しい顔をした巫女が無くしたハンドクリームを探して
こんな陋屋にも来たのだろうか
世間はすっかり春だから
ハンドクリームの必要も無くなって
口元をすっかり隠す花粉よけのマスクが
必要になって
どんなに美しい人も
笑顔を消して
ひたむきに前を見つめて
桜の木の前を歩いてゆくが
巫女の舞い踊る姿が
美しい四季があるから
無粋なマスクをつけても
耐えられるのだと
言いたそうに
話しかける
今日は
赤い目をした
キタキツネの大晦
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