明るい真夜中/塔野夏子
 
場末の小さな店を出ると
もう真夜中のはずなのに
不思議とあたりは白っぽく明るい
街灯もひとつもともっていない
しかし明るいとはいえ太陽がないので
なんだか昼間とはちがった
さびしい明るさだ
真夜中らしく通りも静かで
さっきまでいた店の
小さなステージで歌っていた男の歌が
妙に耳に響いて残っている
 (それは 美しすぎるゆえに
  道化になれない青年の悲哀を
  甘くせつなく歌ったものだ)
この不思議な真夜中の明るさは
ひょっとするとその男の歌の
魔力のせいかと思ったり
それとも今日は冬なのにへんに温かいから
そのせいなのかと思ったり
けれどしばらく前から真夜中とは
こんなふうなものだったかもと思えば
そんな気もしてくる

思いめぐらしながら
駅への坂をゆっくりと下る
右ななめ前方の遠い空に
ぽつんと飛行船が浮かんでいる




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