ヘラブナ/たもつ
沼にヘラブナがいるのだ
帰って来るなり兄は言った
それから棒切れのようなものに
糸と針がついただけの貧しい釣竿を手にし
友達と少し遠い所にある沼に出かけた
数時間後、兄だけが帰ってこなかった
母は両手で顔を覆いうずくまった
お兄ちゃんはどうしたの?と聞くと
父は、ああ、と呟き
何も見てないような目を開けていた
兄が帰ってこない
幼い私にはそれだけのことだった
なのに泣いてしまったのは
いつまでも変わらない
と信じていたことが
実はただの祈りだったのだ
と気づき始めたからだった
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