忘れること、忘れないでいること/岡部淳太郎
ること、忘れないでいること。過ぎ去ってしまった人や物に対して、そのどちらの態度をとってもいい。だが、中には決して忘れないことを心に誓って、過ぎ去ってしまった者について愚直に語りつづける者がいてもいいだろう。たとえ周囲の人たちすべてが忘れてしまったとしても、その死を自らにとっての切実な問題として引き受けて、忘れずにいる者がいてもいいだろう。亡くなった詩人も、僕の妹も、忘れずに僕の記憶の中にずっと存在しつづけていくのだ。
(二〇〇六年十二月)
戻る 編 削 Point(16)