宴/石瀬琳々
 
リュートをかき鳴らす
あの燃えるような響きはどこに
自在のままに弦(いと)を泳ぐ
あの勁(つよ)い指先はどこに
歌はどこに
耳を澄ませば風が行きかうばかり で


目覚めればいつか火の匂い
水を打ったような黎明の空に
ほの白い月が懸かり
解き放たれた静寂(しじま)に
旅するものの姿は跡形もない
此方(こなた)から彼方へとさすらう
あれは憧れという名の旅団
怒りも悲しみも知らず
流れのままに揺れ惑う花
土にまみれた裸足の踊り
或いは軽やかな一陣の風
歌だけを心にまとい


何てはかない手触りだろうか
この指先に残る夢の残滓が
胸の高まりを伝えるだけで
夜明けの森もなく
満ち足りた歌もなく
宴の終わった寂しさのように
一人風を聞いている
ただ指先を漂わせている
燃え落ちたリュートをかき抱(いだ)き
夢の続きをかき抱(いだ)き


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