街風/松本 卓也
ビルの谷間で風が巻く
舞い上がる枯葉を集め
粉々に引き裂かれた夢屑
空に溶けて消えていく
電飾の輝きを纏う聖母像は
美しい無表情を晒して
渋滞の国道を見下していた
履きなれない靴が
小さな軋みを上げている
イヤホンで塞いだ耳の奥にさえ
踏みしめる欠片の悲鳴を響かせる
街灯のほど少ない坂道
時折伸びる遥かに細長い影は
小さく揺れて落ち着かず
一つに纏まる事も無い
ただ帰路辿るだけの歩みが
こんなにも寂しくて
こんなにも穏やかで
去来する胸に抱えた声
恨み言とか嘆きとかでなく
ほんの少しの負け惜しみと
ただ在りのままであった事に
覚えた安らぎの証で
柔らかな風が頬を打つ
通り過ぎる排気ガス
星の無い空を渡る
飛行機雲を視界に捉え
更けていく夜に手を掲げ
過ぎていく時に旗を立て
僕はここだと叫んでみるさ
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