泣きぼくろ。/もののあはれ
 
ブラウン管の向こう側の陽気で楽しい世界の様に。
こっち側の僕らの現実も。
陽気な笑顔に包まれる日が絶対やって来ると強く信じた。


お父さんとお母さんが喧嘩しませんように。
お父さんとお母さんが離婚しませんように。
お父さんとお母さんが仲良くなりますように。
みんなが幸せになれますように。


小さな心の中ではいつまでも。
祈りの言葉だけが永遠に繰り返されていた。


あれから二十年近くたち。
祈りが通じてくれたのかどうか。
今をもって父と母は二人で暮らしている。
最近ではもちろん歳のせいもあると思うが。
随分とお互い心穏やかになってくれたのでとても嬉しい。
今ではあの小さく無防備な背中だった妹の。
可愛い赤ちゃんに二人揃ってぞっこんだ。

そして大人になった僕の左の目尻には。
二人の離婚を阻止する事が出来た勲章であるかの様に。

泣きぼくろがぽろり一粒。

あの頃の涙の意味を称えてくれる様に。
少しだけ誇らしげにたたずんでいた。

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