Michaelが来る/佐々宝砂
 
9号室のミズノさんの指は、
ときどき奇妙に震える。

登山中の滑落事故で全身麻痺、
凍傷に損なわれた右手は人差し指だけを残して。
そのまま数十年を経て皺んだ指、
その指が何かを書いてるようだなと思ったのは、
とある熱帯夜のこと。

何かアルファベットのようだけれど。
わからないのは上から見ているからだと気づいた。
下からのぞき込めばいい。
しゃがんで見上げると、
筆記体で、Michael、と
書いては消し、書いては消し、しているような気がした。

ねーえ?
ミズノさん?
Michaelってだあれ?

それから私は、
思わず声を出してわらった。

知らな
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