夕暮れ組曲/嘉野千尋
 

  やさしさと、            
  いつも呼んでいた
  傷つきやすいその心を
  やさしさだと、
  呼んでいたあなたの
  傷つきやすい心


  秋の終わりの
  夕暮れが
  あまりにも
  美しかったので
  すべてを忘れたふりをした
  わたしたち
  君はやさし過ぎるから、と
  そう言ったあなたの
  臆病なやさしさに、似て
  涙の色をしていた、
  あの薄藍の空


  あなたの微笑が
  いつもさびしそうに見えるから
  だからあなたを
  愛したわけではないのだと
  あなたにいつか
  ささやいてあげたかっ
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