恋人とのわかれ/吉田ぐんじょう
 

塩あめを舐めている
そうして硝子じみたそれを
舌で色々な形に細工して吐き出す
服の釦が取れたときなどは
本当に便利だ
二つ穴でも四つ穴でもカフスでも
きちんきちんと作ってくれる
ただ難点は
少しべたべたするところである


恋人が最近
唸るようになった
威嚇するように
ううううと唸る
放っておいたら
或る日の真夜中
みるみるうちに湾曲して
犬のような獣になって
走り去ってしまった

あとには水晶体のように
まるくなった塩あめだけが
残されて

口に含んで
舐めてみたが
存外さみしい味のあめである
そんなにさみしかったなら
言ってくれればよかったものを


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