朝のできごと/印刷屋
あなたに手紙を書きます。
窓枠に残った蝉の脱殻が
妖しく光ったような気がして、
不吉な予感とともに目が覚めたのです。
脱殻はピアノを弾くかのように、
足を滑らかに動かせて、
枕もとのぬいぐるみが
それに呼応するかのように、
前あしを突き出すのでした。
クマのあとあしのうえには、
小さなお城がくるくると
目にもとまらぬ速さで回転して、
私の目を釘付けにします。
蝉のおしっこに、朝日が架けた虹の向こうから
大きな大きなクマの前あし。
私をあべこべ世界へと
連れてゆくのでした。
あとはお定まりの冒険譚。
ひと通り片づけて帰還すると、
トーストとベーコンエッグの焼けている、
そんな退屈で幸せな生活なのでした。
好きな人がいます。ただそれだけ。
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