鍵/松本 卓也
 
電柱が侵食する細い坂を
テクテクと上る帰り道
背中越しのフロントライト
生き急かすようで落ち着かない

今日を振り返る帰路は
目の前に細く伸びる影さえ
緩やかな歩みを許さない

小さく吐いた白い息
含んだ煙は気流に乗って
当てもなく夕闇を渡る

ポケットをまさぐって
取り出した鍵を見る
草臥れた笑顔の肩越しに
優しい月が笑っていた
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