創書日和「紙」  へだてるもの/逢坂桜
 

  忘れられない絵がある。
  いつ見たのか、どこでだったか、覚えていないが。
  思い出す、絵がある。

  大きな窓から夕暮れの赤い陽が射し込んでいる。
  中年にかかった初老の男女が、テーブルをはさんで座っている。
  男は腕組みをして、眼をとじている。
  女はうつむきかげんだ。
  飾り気のない黒いテーブルには、無造作に白い紙があった。

  喫茶店を思わせる構図に、向かい合う男女。
  二人の間には白い紙。

  内容を知ることはできないが、それこそが、二人をへだてていた。
  重苦しい内容ではないか、という雰囲気が、二人から見てとれる。
  内容が見えないからこそ、空想をかきたてる。
  はっきりわかるのは、その紙が二人をへだてたのであり、
  二人には、寄り添う意思が見えないこと。

  絵の中の二人は、それからどうなったのだろう。
  眼も合わせず、どうやって店から出たのだろう。

  自分が、絵の登場人物になるとは、思ってなかった。
  私と男を、白い紙がへだてている。

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