右へ/霜天
ていく父がいて。やがて弟も、壁も、屋根も越えて、鞄を抱えていってきます、と、その日を閉じてしまった。僕は僕で、お気に入りの空色のクレヨンが見つからなくて。一番奥の部屋の襖を開けると、そこから大きな道が繋がっていて。赤や黒や銀色の車が、僕をどうしても追い抜いていくので。始まりはどこだっただろう。呼吸が苦しくなるといつも、右を確認してしまう。右手、右手、利き手、握り締めて。右はこちらです、僕はこちらです。あなたはどちらですか、僕は元気です。
私たちが、繋がりを込めて名付けた風景に。
全てが右に、緩やかに曲がっていく世界があるように、
差し伸べられた手を、右に添えて繋ぎ合わせていく。
心音が聞こえます、深く、低く、間違えようもなく。
右へ、行きなさい。全て、滞りなく進み行く世界ですから。
懐かしい、海が見えます。
右へ、右へ。ただ、それだけが聞こえて。
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