廃船??夜明けのとき デッサン/前田ふむふむ
いつまでも、始まらない海に、
故郷で聴いた音が――、
懐かしい音が帰る、海へ。
帰りたい。
わたしの肉体が、懐かしい音をはおる。
わずかなひかりが、流れる冬の海原の水脈を映して。
生きたい。
愛惜の山河の眺望が、
遠い母を偲ぶ、暑いみどりの葉脈のなかをくだる。
逝く人よ、
わたしは、今日も、おなじ夢を追想するのか。
うすまりゆく暗闇の密度。
カウントされる枯れる氷山たち。――
立ち上がる白壁のつらなり。
まもなく、ふたたび訪れる、複眼の夜明けのときだ。
わたしの細い手たち。
化石の曠野を行く柩の天蓋を
固く握り締めていこう。
真夏は、この地図にない航海で、
水底に肩を落としたまま佇む、
途切れた糸杉が寂しくひかる、
感傷的な島々の此岸を、
悠揚とした眼差しを立てて、
直立して、渡ってゆくのだ。
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