廃船??夜明けのとき  デッサン/前田ふむふむ
 
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十二月の眠れる月が、遅れてきた訃報に、
こわばった笑顔を見せて、
倣った白い手で、ぬれた黒髪を
乾いた空に、かきあげる。
見えるものが、切り分けられて――。
伏せられた透明な検閲のむれが、支流をよこぎり、
静かに、沸きあがる。
   失われた汽笛に高められた過去、静止した速度、
畳み掛ける重さが、――、
         波の上にひろがる。
             水没のとき。 

わたしは、仄かな夕空をかたどる、
もえる指先を、あなたの白い鎖骨のむこうに、
あてがう。
脈を打つ草々のような海が、蒼い眼差しの奥で、
夏を踏み分ける旅人のよう
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