夕陽/草野春心
君の頬を好きだった
桃の果実に似ていた
ほほえみを蓄えてふくらむ
やわらかな君の頬
君の瞳を好きだった
ただ生きることの 驚きと喜びに
休みなく見開かれていた
ひたむきな君の瞳
君の唇を好きだった
言葉ではない 美しい謎を秘めて
言葉へと僕をいざなう
いじらしい君の唇
いまも いつまでも思い出す
甘く淡い 飴玉の味
けれど どうしても思い出せない
幸せだったはずの あの息苦しさ
君の背中を好きだった
僕を拒んで立ちはだかり
「居る」と「居ない」の 真ん中あたりに僕を置き去る
なつかしい君の背中
そして 君の見つめる先には
窓いっぱいに夕陽があふれていて
僕はそれを見るのも好きだった
君を好きだった
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