例文/三条麗菜
翼の音高く飛び回るのです
「あなたとは
もう何も無い」
私はどうしようもなくて
笑います
何も無い?
何も無いなんてありえない
少なくとも
私にはあるのだから
例文よ
お前の間違いだ
お前の間違いだ
でも例文は何も聞かずに飛び回り
照明を揺らし
便箋を飛ばし
ペン立てを倒します
「あなたとは
もう何も無い」
所詮
お前はそれだけよ
それだけを繰り返していればいい
その後ろにあるものを
私の中にあるものを
何も分からずに
何も知ろうとせずに
繰り返していればいい
でも例文の翼は力強く
部屋中に激しい風が巻き起こり
私は震え上がります
その強い力は
どこから出てくるの?
私を恐れさせるその力は
どこから生まれてくるの?
「あなたとは
もう何も無い」
やがて例文は去っていきます
私の前には
無数の断片に変わった便箋が
散っているばかりです
今日も
あなたに手紙を
書けませんでした
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