ファニチャア海岸/カンチェルスキス
かった
まるで自分の分身のようだったのだ
真新しいテニスボールが
わたしの立ってる波打際に転がってきた
あざやかな蛍光色だ
微笑んでいる人がいる
テニスはやらないけど
テニスボールは好きなのです
その人は言った
わたしは何も考えなかった
生まれて初めて
背中の古い家具を下ろしていた
捨てなくても下ろせばいいと
前から考えていたようなことを思った
波打際でとまったテニスボールを
その人に投げ返した
わたしの古い家具だけが
砂浜に斜めに立っていた
自分が思ってたよりも小さかったのは驚きだった
夕陽が
古い家具の影を伸ばしつつあった
その影に飲み込まれないように
一瞬早歩きになったが
微笑んでいる人がまだ微笑んでいたので
歩く速度を落とし
山なりになってこちらに向かう
真新しいテニスボールを
わたしは落とさず受け取った
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