彼の 人生/もも うさぎ
のあまり幾度となく 道を間違えながらも
たどりついた病院の 病棟の明かりを
その明かりを 彼は見ている
それらはスクリーンの上に
浮かび上がっては消え
浮かび上がっては 流れていった
彼はただ 見ている
彼はけして動かない
人が 持ってゆけるものは フィルムひとつ のみ
その他には なにひとつ 持ってゆけないのだから
彼は座ったまま、そっと 見ている
映写機はかたかた廻り、スクリーンは黄ばんだ白い光にあふれ
上映される その時間(とき)を、優しさや 愛と 呼ぶならば
人生は 愛に溢れている
人生は 愛に 溢れている
〜彼の 人生〜
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