彼の 人生/もも うさぎ
 
映写機の音がする




彼は 人のいない小さな劇場の

 古く湿った 客席に座り


 白くぼぉっと光るスクリーンを見つめる




 
ただ、かたかたと廻る音がするだけ



そこには何も 写されることなく
 
 ただ 薄白んだ光が 曖昧に揺れるばかり




しかしそこに 彼は 見ている






幼い日 真っ赤な夕暮れに駆られ 

 学校かばんを背に飯田まで 何時間も歩いた その線路を 




その線路を 彼は 見ている








戦時下 満州へ行き
 
 二度と
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