その前に/ウデラコウ
 
暗闇の中 沈みかけた月の光を 受けて
ぼんやりと その姿を晒す 赤い 赤い ポストの前で
あたしは 酷く 緊張してる

やんわりと 吹き付ける冷たい北風は ジワジワと
あたしの体温を 奪っていく

手に持った 茶色い封筒には
此処から 片道3時間の場所へ通じる 導が書いてある

うすい光の中 何度もそれを凝視しては
あたしは空中へ 白い息を撒き散らすのだ
絵の具を零したように 白く白く浮かぶそれは
あの人が居る 方向へと 風に乗って 消えていく
でもきっと こんな弱い風じゃ あの人のトコまであたしの声は届かない

手が ガタガタと 震えだす

目の前で バカみたいに 口をあけている その鉄箱に
コトリと 入れるだけなのに

どうして こんなにも こんなにも


風はどんどん あたしの心から 熱をうばっていく

もうすぐで 1番最初のバスがくる 東の空がうっすらとオレンジ色になっていく


全てが動き出す その前に
熱が逃げちゃう その前に


早く あなたのもとへ



届けるために



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