常夫ちゃん/SPINOZAETHICA
午後三時くらい
その老人は看護婦たちのふとった尻に目くばせしながら
いつしか、二月の朝窓辺のちゃぶ台の上でゆれていた
みそ汁の湯気のことを考えていた
なれた手つきで鍋にうずをえがく
おたまを置くコトリという音
みそ汁の湯気のこと
朝起きて出るありふれた涙を
放尿で代わりに済ます
そのあとに飲む一椀のみそ汁の湯気のこと
老人の手は透明なおわんを揺らしていた
かかぁも尻ン太かおなごやったもんなぃ・・
看護婦のゆれながら遠のく尻は悲劇からも遠のき
老人と僕は
自分を笑うしかない自分を演じる自分を笑えない自分を笑えずに
二人中庭の小径で日向ぼっこしながらどんぐりを弄んでいた
老人は僕に
しょざぶ、あさんな尻ン太か女房ばもらわないかんぞ
と言った
老人はみそ汁のことを考えていることを
きっと悟られたくなかった
僕はそのことをとても嬉しく思う
戻る 編 削 Point(5)