幻想譚(Mermaid's dream 2)/月夜野
 
に残る
  いけない気持ちは微塵もなかった
  親密でいることが心地よかった


  四つ目は荒れた庭先に
  林檎の芯を放り投げ
  枯れ枝にかかる月にそっと手を翳した
  わたしはそれから髪を解き
  波の音が聞こえてくるまで
  四つ目の胸に耳を当てた


  「きみが人魚じゃなかったら
  ぼくらはきっと普通に出会って
  普通に林檎をかじってただろう」


  四つ目の言葉にずきんとした
  わたしが人魚じゃなかったら?
  そんな仮定はあり得なかった
  わたしは人魚で あなたは四つ目
  この世の初めから決まっていたこと


  百年前にも同じ台詞を
  どこかで言われたような気がした
  迷い猫が草むらの奥で
  死んだ児の声そっくりに
  オオアアアルと哀しげに鳴いた


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