新橋駅・午前八時五〇分 /服部 剛
 
人の手よ 

一日の労働を終えたら 
その手袋を脱いで 
独りの夜に身を置いて 
裸の胸に素手をあて 
命の音を聴くがいい 


( 闇の中 
( 寂しい手のひらを差し出せば 
( いつか母がつくってくれたおにぎりが 
( 遠く離れた幼き日々の彼方に浮かんでいる 


今朝もベーカリーのレジで 
「ありがとうございます」と
無表情な店員に手渡されたホットドックは 
独りカウンターに座る僕にふっくらと語りかける 

紋切り言葉の 

人間よりも 




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