閉じない猫/渦巻二三五
 
猫のいる家は密(ひそ)かな契約の匂いがする
猫を飼うときには年季を言い渡すきまり
人の家に長く居すぎると
猫又(ねこまた)になってしまうのだ
こどもらが自分の部屋を持ち
夫婦だけになった寝室へ
猫は襖(ふすま)を開けて入ってきたりするらしい

もし後を閉めるようであればそれはもう猫又である

夏のあいだは年季のことは忘れているだろう
風の通る座敷から猫の昼寝を眺めて
あそこが涼しいのだよ
と家の主(あるじ)が言う

人語を話したいか、猫よ

秋の長雨を託(かこ)つころ
襖を開けて入ってきた猫があとを振り返った
うっかり閉めるところだったのか

こどもだってそうだよねぇ。
猫の年季のことかい。
そうだよ。いつか出ていく。

何年の年季を言い渡したのか
主はとうとう言わなかった





          
初出:二〇〇二年一一月一五日 蘭の会一周年特別企画 批評の部 さかさまなコイ!

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