ひとつの恋の/Rin.
ひとつの恋の終わりは、
ひとつの音楽とひとつの香りを残す―――
いつだったか
すれ違った文庫本の帯が
そう主張していた
乾かないルーズソックスの感触に
顔をしかめていた頃か、
キティーちゃんがリバイバルした頃か、
数学の補習にひっかかった夏か、
忘れたけれど、とりあえずあの人と
映画を観て
写真を撮って、
揃いのキーホルダーを買って
ふたりだけで、内緒で徹夜して
そんなことをしていた頃、すれ違った
文庫本の帯が
そう主張していた
ピンクノ帯に白抜きの、ゴシック体
形だけはいまでもここに描けるくらいに
覚えている
それなのにあの恋は
そんなもの何ひとつ、置いてはいかなかった
半開きの校門
鍵のないテニスコート
置き去りの鐘と、微妙な段差
さよならさえ残さなかった、鮮やか
曇った硝子をこすれば
記憶という一本のテープのほかに
残すものなど何もない身軽さで
朝の向こうから、
あの人に手を振られた気がした
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