いつくしみ深く/佐野権太
幹に巻きつけられた
青白い麦球は
今年も
明滅を繰り返す
流れる光は
高い空に昇って
どこへ
すれ違う流れに
爪先を探す男は
今年も
うずくまる
染みだらけのジャンバーを
見ないふりで
白い息をかけあう親子は
今日も
手をつなぎ
暖かいバスに乗り込んでゆく
買物袋からはみ出した
トナカイの
やわらかい、角
はぐれた少年少女は
今日も
感情のない群れに押され
崖の縁から転落してゆく
ひとり
また、ひとり
これ以上押すなと
断末魔をあげることもなく
弱いからというだけで
淘汰(とうた)されてしまって
いいのか
倒れてゆく草食の瞳
いつだって
優しいものから
母上様
この世の中には
たくさんのことが溢れています
たくさんの、ぬくもり
たくさんの、からっぽ
たくさん たくさん
天球の青白い明滅は
今宵(こよい)いつくしみをまとい
地上へと降りそそぐ
支えきれるはずもない
かなしい光の河となって
どこへ
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