聖と死と/月夜野
 
      マンジュシュリ・ミトラの死んだ朝
      わたしは聖河で衣を洗った
      水の底でゆらめく草が
      女の黒い髪の毛に見えた
      空はおぼろな光に満ちていた
      初夏の風が岸辺でそよいでも    
      花の香一つしなかった


      マンジュシュリ・ミトラの死んだ夜
      わたしは部屋でラジオを聴いた
      DJのうそぶく軽口が
      なぜだか厳かな楽曲に聞こえた
      この世は危険な陥穽ばかり
      赤ん坊の寝顔に口づけしても
      乳の香一つしなかった


      マンジュシュリ・ミトラの死んだ日に
      思ったことはただ三つ
      いつまで明日があるだろう
      いつまでここにいるだろう
      あなたはどこへいくだろう





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