手の震え/松本 卓也
音の無い雨が降っている
口元に添えた手には
いつものように一本の煙草
細かく震え落ち着かない
空気は大して冷たくもなく
口に出すような悲しみもなく
ただ確実な事が一つだけ
意思とは何の関係も無い
小さく不整に刻む動きは
いったい何を示しているのか
答えを出そうとするごとに
また一つ意味から遠ざかる
そんな事は分っているつもり
ただ確実な事と言えば
昨日と変わらないように
今日も一人だった事実
安らぐ術を無くした言葉は
空虚な器から飛び出して
自由を謳歌したいと願うのだろう
だけどもう少し待っていて
指の震えが収まる頃には
積みあがった悔恨の中から
一編の詩を掬うのだから
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