満ち潮/月夜野
 
     心が壊れた夜には
     甘い砂糖菓子をたべて
     満ちてくる潮におぼれる
     飽和した呵責を中和するために


     街の背骨の上に
     赤い月が浮かんで
     海面を引っ張ると
     臓器の底の湿った井戸に
     昏い水が満ちる


     産道を通って
     脚のあいだに広がる海に
     いとけない言葉たちが放たれて
     波間にただよう
     無音のままで


     潮の濃度と釣り合うだけの
     甘さに浸って
     喉の奥へと叫びを押し戻す
     この残酷な世界に
     留まり続けるために




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