隠居元年/狸亭
 

二〇〇〇年隠居元年一月一日。墓参。
東京都立多磨霊園二四側四九。
おふくろとおやじとおとうとに「無職」報告。

おそい午前のひざしはおだやかで風もない。
よどんだ時のながれのなかに六九歳没のおふくろと
七八歳没のおやじの平均没年をかぞえてみる。

七三歳。もうあと十余年。そっちはどうだい。
一〇歳でまっさきに逝ったおとうとと三人してひっそりと
おれがゆくのを待ちながら時には噂をいているかい。

ここにたつとぼんやりむこうがみえてくる。
花もない。香もない。米も水も酒もない。
冬枯れの墓標。この肉体の行きつくさきの風景。

手ぶらでやってきて一緒にたたずんでいる
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