マリー アントワネット/ごまたれ
石と罵声が飛び交うなか
彼女はそっとギロチン台へと足をかける
嵐のような時代を駆け抜け
今は不思議と心は静かだ
ふと
あるメロディが聞こえた気がした
幼い頃の
小さなモーツァルトに出会ったときの
あのメロディ
小さな天才ピアニストは
小さな彼女にプロポーズをした
『大きくなったら僕のお嫁さんにしてあげる』
二人でクスクス笑った
今 わかること
何もかも不満だったのは
何もかもがあの頃には劣るから
小さな器
だからこそ
なんの疑いもなくすぐに満たされる
金や食べ物で引き伸ばされた器じゃ
もう何にも満たされやしない
投げられた石が
額にぶつかった
痛みさえ
もう感じない
さようなら
小さなモーツァルト
彼女はゆっくりと
ギロチンへと歩きだした
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