贖いの囚人 /服部 剛
彼は細長い緑の廊下に
静かな足音を響かせてゆく
闇の窓から覗く悪魔の囁きを耳にしながら
無言で待ち構える電気椅子の方へ
罪無き者が身を犠牲にして
贖(あがな)いの徴(しるし)を行う夜
刑務所の外では
稲光の音が冷たい夜を引き裂くだろう
今日という日も
ある国の戦場では人の血が流れ
ある国の路上では
仕事帰りの無数の人々が
地べたに凍えるホームレスに見向きもせず
素通りで家路を急ぐ
彼の脳裏に浮かぶ哀しみの人々
無数の棘(とげ)に刺され幾筋もの血を流す
水晶の心
彼は迷うことの無い静かな足取りで
孤独な足音を響かせてゆく
( 今・この時も世界の何処かで
( この世に生を受ける赤子の産声を耳にしながら
運命を刻む秒針に似た歩幅で
電気椅子の待つ部屋へと続く
細い緑の廊下は
彼を生贄(いけにえ)へと連れてゆく
* この詩は、映画「グリーンマイル」を参考に書きました。
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