贖いの囚人 /服部 剛
細長い緑の廊下
暗い足音を響かせ
連れられてゆく黒い囚人
彼の手から発する不思議な力
病の男の腫瘍を吸い取り
哀しむ女の涙を拭い
踏み潰された鼠(ねずみ)を再び走らせた
黒い顔には
人々が目を背けるものを見逃すことができない
水晶の瞳
世界の何処かから聞こえる
殺される子羊の悲鳴を吸い込む
巻貝の耳
腸(はらわた)を食い千切られる心の痛みに
両手で頭を抱えしゃがみこみ震える
大きい体
顔を覆う両手の指の隙間に光る
太陽の滴を頬に流す黒い囚人よ
その両手に繋がれた手錠を解き放つ
不思議な力を持ちながら
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