ささやかな奇跡/
佐々宝砂
猫は中空を見つめていることがある。
なにもない空間。
なにもないはずの。
猫の視線がどこか一点に凝固して
黒目が大きくなると
わたしはすこしわくわくする。
猫の視点が
わたしの背後に向いていたりしたら
なおさら。
なにを見ているの。
わたしの猫さん。
なにを?
イエグモ?
それともゴキブリが這ってるの。
それとも。
もしかして。
わたしは絶対に振り向かない。
失望には飽きたし
わたしにはささやかな奇跡が必要なのだ。
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