胎児/加藤小判
 
いるものを生みだす

僕たちの生は
時間という観念のなかにしか存在し得ないものなのだ

では
時間とはなにか?

それは
形なきものの残像である

僕は
その形なきものについて語ったり
偶像を立てたりはしない

そのかわりに石を置くのだ
石の沈黙を置くのだ

それが
ハムバッカーを搭載した
青いムスタングだったとしても
何の問題もないけど




一つの石を置くだけで
証明されてしまうことがある

存在の内側から不在が開かれてゆき
その不在のなかで存在は凝固してゆく

血が流れない傷口は
ラクシュミーの微笑に似ている

僕たちは僕たち自身によって
裏切られながらこの存在を持続してゆくのだ

生きているのわたしではない
死んでゆくのはわたしではない

僕は屍のように横たわって
形なきなにかがやって来るのを待っている
じっと息をひそめて

生まれもせずに
待っている

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