黒いノート/
塔野夏子
僕の黒いノートの表紙に
ときどき
窓が出来ていることがある
その向こうで
君のかなしみが
淡い落下をいつまでもつづけている
(背景はいつも夏の
誰彼時(たそがれどき)か
彼誰時(かはたれどき)だ)
僕はそのたび
君のそのかなしみを
撃ち抜きたい
と思う
けれどその術があろうはずもなく
そんなときいつも僕の背後で
愛しい
という言葉が
触れがたく可憐な波紋をひろげている
僕の指は
黒いノートの表紙の上で震えている
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