黒いノート/塔野夏子
 
僕の黒いノートの表紙に
ときどき
窓が出来ていることがある
その向こうで
君のかなしみが
淡い落下をいつまでもつづけている
(背景はいつも夏の
 誰彼時(たそがれどき)か
 彼誰時(かはたれどき)だ)

僕はそのたび
君のそのかなしみを
撃ち抜きたい
と思う
けれどその術があろうはずもなく

そんなときいつも僕の背後で
愛しい
という言葉が
触れがたく可憐な波紋をひろげている

僕の指は
黒いノートの表紙の上で震えている





戻る   Point(21)