売れつ子になつた夏子/杉菜 晃
 


旅先の田舎のベンチで
君の名前を見つけたよ 
夏子
いつたい誰が 断りもなしに
君の名前を書きつけたりしたんだ

(こんな色褪せた おんぼろベンチの
背凭れに 乱暴な稚拙な字で 卑猥な
落書とごちやまぜになつて)

それからといふもの 
夏子
君の名前を
あちこちで見かけるやうになつた

山で
海で 
街で 
木や 
砂や 
壁に 
君を見るやうになつた

夏子 
君は僕の出掛けて行く先々で
待ち構へてゐたな
時には 
しよんぼり海を見てゐたり
壁に凭れてゐることもあつたけれど

大抵は気に食はない男たちに
囲まれて
浮名を流してゐたよ

夏子
そんなわけで
僕の旅はさんざんだつた

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