静けき時間/杉菜 晃
なぜ湖がよいのか
一望にできる姿をしてゐるから
瞳のやうに澄んでゐるから
四囲の風景をとかして
もう一つの世界をつくつてゐるから
おそらくそれら諸相に根ざして
我が魂を鎮める霊気が
湖水の奥深く湧いてゐるから
今も湖の中心に近く
幽かに波紋が生れる
水輪は微細にきらめきつつ
岸辺に寄せてくる
その冷たく澄んだ水を
掌にむすんで
感情の赴くままに
―我を救ひ給へ―
と祈りにも似た呟きをする
呼応するやうに
大きな魚が水面上に躍り上がる
煌きは湖畔を明るく照らして
みどりの水面深く没していく
奥まつた水陰で水鳥が啼く
ついで羽ばたき
また啼く
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